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高校に上がりたての春
実は私は、それまで春が嫌いだった
昔から人と関わるのが苦手で、嫌われることが多かった私。暖かみの感じられない人間関係が辛かった
だから、春は妬ましかった。私の羨む人間関係の理想像が、そのまま表れている気がして
ある日のことだ
父の車で帰った道、私は携帯をいじっていた
外の桜は満開と知っていた。でも見る気分ではなかった。嫌いな春に咲く花に、どうも好意的な意識を向けることができなかった
「見てみろ、ここの桜はすごく綺麗だぞ」
運転する父が私に向かってそう言った
「桜なんてどこも毎年変わんないよ」
そう言った私に再度「見てみろ」と言う父。仕方なく窓から桜を見上げた
思わず息を呑んだ
道路に沿った桜の並木道
本当に普通の桜
なのに、綺麗すぎた
青空のキャンパスに描かれた淡いピンクの桜は日の光を浴びてさらに淡く、とても美しくて…
気がつけば車の窓から身を乗り出して、夢中で写真を撮っていた
暖かい風が頬をなでて、スッとした。自分が泣いてることに初めて気がついた。感動して泣いたのだ。嫌いなはずの春の桜に…
あれからもうすぐ2年経つ。私はもう少しで高校3年になる
相変わらず人と関わるのは苦手だが、春はそんなに嫌いじゃなくなった
むしろ、春のような暖かい人間関係を築けるようになりたいと思うほど、春が好きになった。いや、今思えば最初から好きだったのかもしれない。ただ素直になれないだけで
そう思えるようになったのはきっと、あの日の桜のおかげだ
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