-ある男-

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「あまり遠くへ行くなよ。この森には夜行性とはいえ、狼もいるのだから」 そうルー爺に言われながらも、出かけた昼下がり。 凪は小屋からずいぶん離れた場所にいた。 「こりゃまた、離れた所へ来ちゃった」 ひとりごちで、景色を見渡す。 はるか頭上の方で、木々は見事な枝振りを競うように広げ、 葉は陽を透かして、濃淡さまざまな緑の影をおとしている。 地面にはあまり日差しがあたらないので、草花たちは丈低く、控えめに生えている。 昼でも森は薄暗かったが、そのおかげで見張らしは良く、歩きやすかった。 半分朽ちた倒木からは、土のにおい。 ときおりそよ風がふくが、それはルー爺の言っていた「しゃべる風」ではないようだった。
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