-ある男-

11/45
前へ
/173ページ
次へ
「大丈夫ですか!?」 凪は、倒れた人を見るのははじめてだった。 思わず駆け寄り、濡れるのも構わず跪いてその人をひっぱる。 長く水のなかにあったせいか、手は冷たくふやけ、服も濡れて重い。 「くっ!!」 凪は片腕を掴み、立ち上がってひっぱる。 流れに逆らって、ズズズ、とその人はやがて姿を完全に坂の上へあらわした。 凪はひとまず、その人を水のあたらない場所まで引きずり、息をはいた。 ながい深紅のマント、フードに隠れた顔。 フードからこぼれて水に流されている、長い髪の毛はお世辞にも言えない、錆びた鉄棒のような色。
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

129人が本棚に入れています
本棚に追加