とある幻想の吸血姉妹

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左手、というのは上条の幻想殺しを気にしての事なのだろう。上条も特に気にせず、握手を返した。 「……つまり、当麻は霊夢の代わりに異変解決に、って訳なんだな?」 「ああ。博麗からは霧雨の名前も聞いてるからな。俺的には一緒に行動してほしいのですが」 実際さっき追われていた時点で魔理沙が来なければ、上条は美味しく戴かれていた事だろう。 彼も路地裏で不良と喧嘩はする。 しかし、一人相手なら何とかなるが、二人相手なら普通にキツイし、三人相手なら迷わず逃げる。 上条当麻はあくまで普通の高校生なのだ。 「私は別に構わないぜ。それじゃあ……こんな所を歩いて抜ける自体が自殺行為だ。お前どうせ飛べないんだろ、乗れよ」 魔理沙は自分で持つ箒に跨がり、上条に声をかける。 上条は目を点にさせて、 「もしや、空飛ぶ箒とか言うヤツでせうか?」 「ああ、そうだぜ」 それを聞いた途端、上条の目が輝きを持つ。 「空飛べんのか!うおーラッキー!」 彼は空を普通に飛んだ事が無い。 あったとしても超高速旅客機から放り出されたり、普通の飛行機でもハイジャックされたり、と空には良い思い出が無いのだ。 ここらで良い思い出っていうもんを作ってみてもいいかもな、と上条は鼻歌混じりに魔理沙の後ろに乗る。 魔理沙は、上条が一瞬ドキリとするぐらいの笑顔で言った。 「私は幻想郷最速の普通の魔法使いだ。私の腰でもなんでも、しっかり掴まっとけよ。振り落とされるぜ!」 「え、」 ふわり、と箒が宙に浮かぶ。 一定の高度に到達するまで、上条は彼女が言っていた言葉を思い出す。 そしてその言葉を良く咀嚼し、 (さて……今日も言うか) 息を思い切り吸い込んで、 「ふっ……不幸がばばばばばばばば!」 「ん、何か言ったか? 聞こえなかったぜ」 最後まで言う事すら叶わなかった。 森を出ると、巨大な湖が見えた。 そこは比較的普通の真っ白な霧が立ち込めていて、湖の広さは解らない。 「とにかく中央へ向かうぜ!」 「こらーっ、あたいの縄張りで何やってんのよ!」 立ちはだかるのは氷の妖精、チルノ。 見た目は小学生低学年、ルーミアと同じくらいだった。 彼女の周りに、百を越える程の妖精が集まる。 さすがの魔理沙も一旦スピードを落とし、その場で浮遊を始めた。
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