とある幻想の吸血姉妹

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「……く、う……ここは、」 上条は目を覚まし、辺りを見回す。そこは古い家屋だった。 「お目覚めになられましたか?」 背後からの声に上条は振り向く。 そこには、一人の女性がいた。 端正な顔立ちは、通りすぎる誰もが振り返るほどだ。 だが、 (……きつね?) 彼女には耳があった。普通の人間のような顔の両端にではなく、頭に。 しかも尻尾まで生えていた。数は九本。 「あんた、誰なんだ」 一応警戒はしてみるが、対する女性からは何の悪意も感じられない。 上条が目覚めてから二言目を彼女は発した。 「ここはマヨヒガ。幻想郷に迷い込んだ……というか、連れて来られた人間が最初に着く所よ」 段々と意識がはっきりしてきた上条は自分の質問に答えていない事に気付くが、それよりも女性の発言を耳にして、上条は自分の右手を見る。 彼の能力『幻想殺し』は名前の通り、全ての異能の力を打ち消す。それが神の奇跡だとしても。 彼女の言った『幻想郷』が何なのか解らないが、もしも言葉の通りなら、とんでもない事になるのではないだろうか? 上条が心配になってきた時、部屋の襖が開いた。 そこには先程より年上に見える女性が立っていた。 「大丈夫よ。私があなたの能力に制限をかけておいたから」 「制限?」 突如現れた女性の名前よりも、能力の制限の方が気になる。 「ここ、幻想郷にはね。多くの人外が暮らしているの。つまり、あなたの右手が触れただけでその存在は消滅してしまう」 上条も近い存在に会った事がある。 AIM拡散力場によって作り出された少女、風斬氷華。彼女は上条の右手に触れる事を頑なに拒んでいた。 それは彼女自身が触れれば消えてしまう異能の存在だったからだ。 ここで上条の頭に疑問が沸く。 「……待ってくれ。わざわざ制限をかける必要があるくらいなら、どうして俺は連れて来られた? そもそもあんたらは何者だ?」 その質問に年上の女性は胡散臭い微笑を浮かべて答える。 「まず私は八雲紫(ヤクモ ユカリ)。幻想郷の結界を管理するスキマ妖怪ですわ」 「よ、妖怪!?」 驚きをあらわにする上条。 今まで魔術師だの『神の力』だのに出会ってきたが、妖怪は初めて……いや、どっかで会ってるのかな、気付いてないだけで、などと彼は考える。 第一、紫は見た目普通の女性なのだから無理もない。
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