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上条が飛ばされた先は、廃れた(ように見えるのは参拝客がいないからだ)神社だった。
(巫女さんってのは境内にいたりするんじゃないのか? ……って、ぶっ倒れてるんだったな)
上条は適当に考えながら足を動かす。
賽銭箱を見てポケットをがさごそと探り、財布を取り出す。
(せっかく神社に来たんだし賽銭ぐらいはなー)
またまた適当に考えながら財布を覗き込む。一番小さな金額は百円玉。少し躊躇いもしたが、とりあえず硬貨を一つ、賽銭箱に滑り込ませる。
ちゃりーん、という音が静かな神社に響いた。
瞬間、
「い、今のはお金の音!?」
(っーー!?)
神社の中からそんな叫びが聞こえる。
更に、体を引きずるような音がして、それがこちらに近付いて来る。
思わず身構えた上条だったが、
「……あら、見ない顔ね。新参者?」
「あんたが……博麗霊夢か」
現れたのは一人の少女だった。寝巻きのままなのは寝込んでいたからである。
少女、博麗霊夢は首を捻って怪訝な顔をする。
「新参者なのに私を知ってるのね。人里の人間?」
「あー違う違う。顕界……だっけ? 俺が元から住んでいた場所からこっちに連れて来られたんだ」
「連れて……あぁ、そういう事ね。お気の毒に。私は今体調不良だから帰してあげられないわよ」
それも違うって、と片手をひらひらさせる上条に霊夢は更に眉を潜める。
「周りを見りゃ分かるけど……紅い霧が凄い事になってんだろ?」
「ああ、その事。本当なら私が解決しに行かないといけないんだけど、ご覧のザマなのよね。魔理沙に頼んで行ってもらったんだけど正直心配だわ」
知らない名前を聞いて、今度は上条が首を傾げる。
「魔理沙?」
「友達の魔法使いよ。あいつ一人に異変解決を頼んでんの」
「それ……大丈夫なのか? 相手は吸血鬼なんだぞ!」
「そうなの? 異変の犯人が何なのかなんて解らないわよ」
ここで『あれ?』と上条は違和感を感じる。
(もしかして、八雲紫はこの子に詳しい事情を教えていない?)
ここが『霊夢が異変解決に赴かない』平行世界である事に関係があるのなら、これ以上余計な事を言わない方が良い、と彼は勝手に納得する。
「とにかく。俺もその異変解決を手伝うぞ」
当たり前のように言い放った上条に、霊夢は驚きを顔に出す。
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