とある幻想の吸血姉妹

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「つー訳だ。だからお前はゆっくり休んでろ」 上条は笑う。これから何が起こるか想像もつかない死地に赴くというのに。まるで、近くのコンビニに行ってくるとでも言うような気軽さで。 博麗霊夢は解らなかった。 この初対面の少年は何故こうまでしようとするのか。 本当に下手をしたら、大怪我どころじゃ済まなくなるかもしれないというのに。 「どうして……」 「ん? あー……何て言うかさ、上条さんは困った人を見てるとほっとけなくなる性格なのです」 「……はぁ、あんた馬鹿じゃないの?」 ホント、馬鹿みたいだ。 そして、そんな馬鹿に頼ってみようと思った自分も馬鹿みたいだ、と霊夢は溜め息をついた。 生い茂る森の中、上条当麻は走っていた。 時間はまだ昼時だというのに、陽の光を遮る木々は容赦無く上条に暗闇と冷気を提供する。 しかし上条は寒くなかった。 暗闇に恐怖している余裕すら無かった。 彼は一度だけ後ろを振り向く。そこには、何十匹もの妖怪が。 上条を捕まえて食べようとでも言うのだろうか、異業の化け物たちは間違い無く彼だけを追っている。 「ふっ、不幸だあぁぁぁぁあ!」 何故こうなった、と言われてもどうしようもない。 遡る事、約三分。 上条は博麗神社を出た後、霧の元凶を探す為、妖怪の森を通っていた。 とにかく怪しい所を探そうという上条の考えがそもそも不幸の始まりだった。 森を進むと、一人の少女がいた。黒が基調のワンピースに赤いリボン。小学校低学年辺りのその少女の周りにはたくさんの妖怪がいたのだ。 (な……! ありゃマズイんじゃねえのか!?) 非常に悪状況だと理解してからの上条は行動が早い。 「おいお前ら!」 この右手は弾幕ごっこによる攻撃しか消せない。 紫によってそう制限がかけられているのだ。 つまり少女を取り囲む妖怪の存在自体は消せない。 それでも上条は迷わない。 それが、上条当麻が上条当麻たる所以だった。 「寄ってたかってそんな小さな女の子を取り囲むたぁいい度胸じゃねぇか!」 妖怪が一斉に上条の方を振り向く。 数は5。 彼は一瞬たじろぐが、だからと言って逃げない。 少女を助けると決めたから。 だから上条は驚いた。 妖怪たちが少女と上条との間に道を開ける。
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