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「大丈夫、吸わないよ」
はぁ、と安堵に胸を撫で下ろしたのはつかの間だ。
サーナはその直後に悪魔のような暗い顔をして、
「(……今はね……)」
と、小さな声で言った。
「今なんか言ったよね! 聞き捨てならねぇ良からぬこと言ったよね!」
「言ってない言ってなーい♪」
と、サーナは段ボールからピョンと出てきた。
身長は、明希の肩に頭のてっぺんがとどくかとどかないかくらいである。
それよりも、聞くことはまだ山積みだ。
「そういや、なんで宛先が俺なんだ?」
その言葉に、サーナは、ふざけていた時とは違った、暗い顔をする。
まるで、答えることを躊躇(ためら)っているかのように。
「アナタは、選ばれし者だから」
選ばれし者? 抽選か何かか?
「誰が選んだんだ?」
「吸血鬼界最高指導者、ナグリルガ・クロアイ・ラピュナータ」
「ん? 名前以外同じってことは、お前のお父さんか何かか?」
「ううん、違う。私達……吸血鬼はみんな同じ苗字なの」
「あ、そうなのか……でも、なんで俺を?」
その言葉を聞いて、サーナは静かに懐(ふところ)から赤い光る玉を取り出した。
「これは選ばれし者の選抜儀式に使われた儀式玉。アナタは、この儀式玉にも選ばれた」
「は、はぁ。それは今はわかったとしようか。その、なんでお前がここに来たんだよ」
「……」
すると、サーナは黙り込んでしまった。
その十歳前後の華奢な身体は、震えていた。
そして、また静かにその口が開かれる。
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