終わり

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 時間を巻き戻して、全てをなかったことにすればいい。  そうすれば少年が少女に刺殺されたことも、女神が宮殿を赤で汚した事実も……全てなかったことになる。  簡単なことだ――口先では。  『巻き戻し』には欠点があった。  ボタン一つ押せば全てが好きなだけ巻き戻せる、そんな風に世界は出来ていない。  巻き戻すなら一分一秒、一人一人の息づきの瞬間を含め全てを正確に巻き戻さなくてはならない。しかし神とてそんな高等な技術を持ち合わせてなどいない。  よって世界に小さなズレが生まれてしまうのだ。世界のどこかに、巻き戻しきれなかった歪みが生まれる。  本来歪みは、どんなに小さくても在ってはならない。世界が狂ってしまう。  しかしもう遅い。既に四回も世界は巻き戻された。  故に世界は既に狂っている。  私は頬に飛んだ血を手の甲で拭った。返り血を浴びた為に体は血生臭い。  この血液が誰の持ち物であるかを考えただけでも吐き気がする。 .
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