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もしかしたら今僕は夢の中にいるのかもしれない。
確かに入浴中だが僕の部屋の浴槽はこんなどこかの銭湯の浴槽みたく広くないし――僕の向かいに誰かいることもない。
何よりおかしいのが僕も相手も服を着たまま湯に浸かっていることだ。
そして向かいの相手は黒髪の綺麗な大人の女性だった。
――いや。
いやいやいや。
大丈夫だ。かなり焦ってはいるが誰かさんが想像するような展開にはなっていないはずだ。
何かしちゃいけないことをした覚えもない。
僕はまだ健全でいい子のはずだ。冗談だけど。
「美戯」
ふいに、彼女が僕の名前を呼んだ。
僕は吃驚して彼女を見る。
何で僕の名前を知っているのだろうか。僕は彼女が誰だか分からない。
いや。
『 思 い 出 せ な い 』。
「大きくなったわね……美戯」
彼女がふと笑う。
その表情が誰かにそっくりで――僕はなんだか吐き気がした。
冗談ではない。
「貴女、誰ですか?」
「これは罪なの」
僕の問いを思いっ切りスルーして彼女が言葉を繋ぐ。
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