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急に携帯を持っている右手が震えだした。落とさないよう左手で右手首を固定する。
手の震えがおさまり、通話ボタンを押した。
「はい、もしも――」
『アンタはわたしのことが好きなのよね!?』
「あぁ!」
『だ、だったら、わたしがアンタを好きになれるように努力しなさい! もしそれができたら付き合ってやっても構わないわ。ありがたく思いなさいよ!』
「今の言葉、忘れるんじゃねぇぞ」
『ち、ちょい訂せ――』
都合の悪い条件を言いかねないので、言われる前に電話を切ってやった。
よし、絶対に好きになってもらおう。
帰り道、僕は曲を聞かずどうしたら好きになってもらえるか考えていた。
一番手っ取り早いのが、僕が愛川さんの家に行くことだ。僕の部屋と彼女の部屋は目と鼻の先にあり、簡単に侵入することができる。これでいつでも愛川さんに……!
「それじゃあ、早速お邪魔しようか」
自分の部屋に上がり、窓を開け、窓枠に足をかける。愛川さんの部屋は今日もカーテンで中の様子は見えなかった。
いや待てよ。そもそもまだ帰ってきていない可能性だってある。部活に入っていたり……。
突撃大作戦は9時に決行しよう。
どうも気持ちが落ち着かない。9時まで待ちきれない。今、愛川さんはなにをしているのだろう。部活に励んでいるかもしれないし、もしかしたら家にいてなにかしらしているかもしれない。
そういえば明後日は1学期の中間テストの試験発表だったか。……とりあえずテスト範囲っぽいところを勉強しよう。
iPodをスピーカーに差し、曲をかけながら勉強する。こうしたほうが集中できるのだ。
「おっ、結構頑張ったかも」
ふと机の上に置いてある時計を見ると、6時を過ぎていた。
「よし、本日はこれにて終了。さぁ、飯だ飯だ」
まだ制服であるということに気付いた。
「う~ん、今日はなににしようかな~、っと。……肉じゃがでいっか」
台所に立ち、今日の夕飯の準備を始めていると、
ピンポーン
と、インターホンが鳴った。
そーっと覗き窓から外の様子を伺うと、愛川さんがボーッと立っていた。
いきなりのことすぎて、僕は玄関の扉に頭を思いっきりぶつけた。
「いてっ!」
これってデジャブか?
とりあえず玄関のドアを開ける。
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