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どこを見回しても視界に『白』が入る狭い空間に俺と俺の友人はいた。
いや、突然放り出されたのだ。
それも、俺の実の母の手によって。
前々から察してはいたのだ。
いつか母は俺をここに送るだろうと。
だが、どうしても俺はその事実を信じたくなくて、ずっと先延ばしにし続けて……この様だ。
そっと、母に頼まれて俺をここに連れてきた友人を盗み見る。
友人はこの深刻な状況で、今にも崩れ落ちてしまいそうな俺の隣で呑気にも大きな欠伸をひとつ。
何でコイツはこんなにも余裕なんだ?
まさか、こいつには聞こえないとでも言うのか?
俺達に刻々と迫る恐怖の足音が。
ギィと扉が開く重苦しい音がする度にこの空間にいる人間が一人、また一人と連れ去られていく。
連れて行かれた彼等はとある個室で腕を刺されていく。
……今も。
小さな子が泣き叫んでいる声が聞こえて俺は小さく肩を震わせてその声を遮断するかのように堅く目を閉じ、きつく耳を両腕で塞ぐ。
とうとう俺の隣の人間がいなくなってしまった時、俺はもう我慢が出来なくなった。
突き刺さる周りの視線を気にせず性急に立ち上がる。
「どした?」
いきなり立ち上がった俺を訝しげに見る友人の言葉はもう、俺の耳には入らない。
俺の耳に入る唯一の音は、あの音だけ。
軋むドア、冷たく響く靴音……ああ、無理無理無理、俺もう限界!
「お、俺帰るわ」
「いや、何言ってんだよ」
思わず口から零れ落ちた言葉を器用に拾った友人は同じように立ち上がって、困惑した顔で俺の肩に手を置いて俺を引き止める。
なんて言葉をかけたらいいんだろう、そんな言葉が聞こえてきそうなくらいな困った顔をしている。
「落ち着けよ。お前なら出来っから」
そんな顔で言われても説得力がないぞお前。
それに、嘘だろ?
俺にこんなことが出来るはずがない。
耐えられるはずがないんだ。
「無理に決まってるだろ。俺は……俺は」
どんどん不安と反比例するかのように小さくなって消えていきそうな声を出すと、俺の肩に置かれた手にぐっと力が込められる。
「そんなことないって。お前なら、絶対に出来るから。俺だって出来たし皆、もうとっくの昔に終わらせてることなんだぜ?」
「……だけどっ」
――ギィ
「……っ!」
とうとう俺の番になってしまったようだ。
体の振るえが止まらない。
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