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こんなはずじゃなかった。
そうオレはたまに高々と叫びたい気分になる。
まあ、今が丁度その時なんだけどさ。
部屋に響き渡る小さいすすり泣きにオレは俯いて静かに息を吐いた。
「――なあ、そろそろ機嫌直してくれよケイ」
「私に話しかけないでよ……部屋から出てって。あなたなんて大っ嫌い!」
ヒステリックに叫んだ彼女はまた、抱え込んだ両膝に自分の顔を埋めた。
――出て行けって、ここオレの部屋なんだけど。
ベッドにいる彼女を置いて、オレは部屋の隅で胡坐をかいて壁にもたれかかった。
ここからじゃ、彼女の顔は窺えない。
だけど、絶えず耳から伝わる振動からして相変わらず泣いているようだ。
彼女に聞こえないように、オレはまた溜まった息を吐き捨てた。
「またやってるの? 裕也」
「……好きでやってるわけじゃねえよ。オレも、ケイも」
オレ達のやり取りが聞くに堪えないのか、双子の姉である卓美が真っ黒な携帯電話を片手に握り締めて心配そうに薄く開かれたドアの隙間から顔を覗かせていた。
オレが思わず零した言葉に、くぐもった低い男の笑い声が聞こえてほぼ反射的に顔を顰める。
「――んだよ。何かおかしいか? タイ」
「いやァ? 相変わらず仲睦まじいなって思っただけだぜ、裕也」
「お前こそ相変わらずだな。お前の立場らしくその無駄によく周るうるせえ口を閉じて、静かにしたらどうなんだ」
「……ちょっと、二人共。喧嘩しないで。タイはこんなときにちょっかいださない、裕也はちょっかいだって分かってるくせにのっかからないの」
姉の言葉に一応弟のオレは勿論、絶対的に従わなければならないタイは口を閉ざした。
それがほぼ同時だったからか卓美に笑われてもう一度顔を顰めるとほぼ同じタイミングだったのかまた卓美が笑った。
「で、裕也の相棒はどこにいるんだァ?」
「ベッドの上」
「ちなみに、喧嘩の理由はどうしたの?」
「いつものアレ」
「ああ……」
二人から矢継ぎ早にされる質問に簡潔に答えていくと、少し引きぎみに卓美が頷いた。
角度的にタイは見えないけど、声からして卓美と似通った反応をしてるんだろう。
「だからさ、いつものよろしく。卓美」
居酒屋の常連みたいな発言だなと自分で思いながらも、躊躇う卓美の手を引いてオレの部屋へ招き入れる。
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