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春と夏の間。
緑生い茂る季節は朝から晩までのどかで爽やかで平和だ。
しかしそんな爽やかな朝に、膨れっ面の男が一人。
静かな広間の真ん中でごろごろしていた。
「……邪魔なんですけど、藤堂さん」
ふっ、と頭上に現れた影に気づき目をあげた藤堂を見下ろすのは、不機嫌全開の蒼妃だった。
「あ、蒼妃。だって暇なんだよ~。退屈なんだもん」
最早ただのガキである。
「そんな事知りません。というかどうでもいいです。私は忙しいので」
そんな彼にニコリともせずそう言い放つ蒼妃はどうやら相当機嫌が悪いようだ。
普段は何を言っても、穏やかな笑みを絶やさない蒼妃。
その彼女がここまであからさまに機嫌の悪さを主張するなんて一体何があったのか。
「…………気になる」
ポツリと呟きよいしょっ、というかけ声と共に起き上がった藤堂はじと~っと睨んでくる蒼妃を見る。
「一体何をそんなに怒ってんの?
俺で良かったら話、聞くけど」
藤堂がニッと笑ってそう言えば、はぁ、とため息をついてその場に座る蒼妃。
不意にふわりと広間を駆け抜けた風が彼女の髪を揺らしていく。
……怒ってても綺麗だよなぁ。
ぼんやりと藤堂はそんなことを思った。
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