冬の向日葵、夏の椿

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  「だからって、何も一気に全部しなくてもいいだろうが!!」 「因みに修繕は副長が大好きな呉服屋に頼んで参りましたので、当分帰ってきませんよ」 吠える土方を気にすることなくそう言い切った蒼妃の背後に、土方は確かに阿修羅を見た。 土方には、非の打ち所のない綺麗な笑みが裏にとてつもない怒りを隠した仮面のように思われた。 「じゃあ、新しい着物は?」 意地かそれとも矜持か。 一瞬怯んだことをおくびにも出さず、土方は蒼妃を睨みながら言った。 しかし、それも次の蒼妃の一言には呆気なく崩れ去る。 「ありません」 すました顔でそういう蒼妃の姿を、柱の陰から見ている影が二つ。 気配を消して潜んでいた――――。  
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