冬の向日葵、夏の椿

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        ◇  ◇  ◇ 「さて。……いつまで睨んでるんですか、小梅さん?」 屯所の門をくぐり、通りに出た蒼妃は振り返ってため息を一つ。 呆れたようにそう言った。 「…………納得いかねぇ」 彼女の視線の先にいた艶やかな美女はその麗しい唇から、百年の恋も一瞬で冷めるような重低音を零した。 「だって着物、欲しいんですよね?」 わかりきっているくせにそう訊く蒼妃に、小梅と呼ばれた土方は大きく舌打ちしてから肯定する。 「じゃあ行きますよ」 何が楽しいのか、足取りも軽やかに市街に向かう蒼妃の後を土方は覚束ない足で追いかける。 「…………だからって女装する意味が分からねェけどな」 刀を差せない今の自分の格好を思い、彼は深々とため息をつくのだった。  
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