261人が本棚に入れています
本棚に追加
「ありがとうございます。あ、京太さん、一着だけ今日中に仕上がりませんか?」
「今日中ですか…………それは、ちょっと……」
言葉を濁す越前。
無理なのだ、物理的にそんなことは。
しかし、蒼妃は無理だという事を重々承知していながらこういったのだ。
「実は、今朝方、彼女と一緒に彼女の兄上様の着物を整理していたのですが……」
「何か……あったんですか?」
「修繕に出したり処分したりしていくと、明日のお召し物が無くなってしまって。
何とか一着、お願い出来ないでしょうか?
私、平助様に申し訳なくて……」
そう言って着物の袖で涙を拭う仕草をする蒼妃に、越前はドキッとする。
「わかりました、出来るだけのことはしましょう。……ところで平助様、というのは小梅さんの兄上様でしょうか?」
「ありがとうございます!!
はい。平助様は小梅さんの兄上様で、私の許婚です」
「……………………いい、なずけ……?」
「はい!!」
幸せいっぱいの笑顔で頷く蒼妃と、今にもサラサラと砂になってしまいそうな越前の間を風がヒュウ、とすり抜けていった。
最初のコメントを投稿しよう!