冬の向日葵、夏の椿

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  「ありがとうございます。あ、京太さん、一着だけ今日中に仕上がりませんか?」 「今日中ですか…………それは、ちょっと……」 言葉を濁す越前。 無理なのだ、物理的にそんなことは。 しかし、蒼妃は無理だという事を重々承知していながらこういったのだ。 「実は、今朝方、彼女と一緒に彼女の兄上様の着物を整理していたのですが……」 「何か……あったんですか?」 「修繕に出したり処分したりしていくと、明日のお召し物が無くなってしまって。 何とか一着、お願い出来ないでしょうか? 私、平助様に申し訳なくて……」 そう言って着物の袖で涙を拭う仕草をする蒼妃に、越前はドキッとする。 「わかりました、出来るだけのことはしましょう。……ところで平助様、というのは小梅さんの兄上様でしょうか?」 「ありがとうございます!! はい。平助様は小梅さんの兄上様で、私の許婚です」 「……………………いい、なずけ……?」 「はい!!」 幸せいっぱいの笑顔で頷く蒼妃と、今にもサラサラと砂になってしまいそうな越前の間を風がヒュウ、とすり抜けていった。  
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