261人が本棚に入れています
本棚に追加
仕事の後の一杯、といった風にちびちびと麦茶を啜る俺の相手をしていた蒼妃。
くるくるとよく変わる表情を見ていると、まるで幼い子どもを見ているみたいな気持ちになる。
不思議なもんだな。
こんな子が、道場で竹刀を握れば鬼もかくやといった表情に変わるんだから。
「――それで、原田さんってば自分が振り回した竹刀で自分のお腹を……ふぁ……」
話の途中で欠伸が聞こえて、湯呑みに向けていた視線をふと彼女に向ける。
「もうこんな時間や。眠いやろ?
俺ももう寝るし、蒼妃も部屋戻りぃ」
まだ寝る気はさらさら無いが、こう言わなきゃ何時までも俺に付き合って起きていそうだ。
「ああ、もうこんな時間だったんだ……。
じゃあ、私は大人しく部屋に戻ります。山崎さんもちゃんと寝るんですよ?」
「わかっとる。お休み、蒼妃」
「お休みなさい、山崎さん」
にこっと笑って手を振り、蒼妃が台所から出て行くのを見送った次の瞬間。
飲みかけの麦茶に映っていた笑みはかき消すように消えた。
そして俺は自覚する。
彼女といる時ですら、俺は作り笑いしか浮かべていない事を。
最初のコメントを投稿しよう!