笑えない理由

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  仕事の後の一杯、といった風にちびちびと麦茶を啜る俺の相手をしていた蒼妃。 くるくるとよく変わる表情を見ていると、まるで幼い子どもを見ているみたいな気持ちになる。 不思議なもんだな。 こんな子が、道場で竹刀を握れば鬼もかくやといった表情に変わるんだから。 「――それで、原田さんってば自分が振り回した竹刀で自分のお腹を……ふぁ……」 話の途中で欠伸が聞こえて、湯呑みに向けていた視線をふと彼女に向ける。 「もうこんな時間や。眠いやろ? 俺ももう寝るし、蒼妃も部屋戻りぃ」 まだ寝る気はさらさら無いが、こう言わなきゃ何時までも俺に付き合って起きていそうだ。 「ああ、もうこんな時間だったんだ……。 じゃあ、私は大人しく部屋に戻ります。山崎さんもちゃんと寝るんですよ?」 「わかっとる。お休み、蒼妃」 「お休みなさい、山崎さん」 にこっと笑って手を振り、蒼妃が台所から出て行くのを見送った次の瞬間。 飲みかけの麦茶に映っていた笑みはかき消すように消えた。 そして俺は自覚する。 彼女といる時ですら、俺は作り笑いしか浮かべていない事を。  
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