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バス停からバスに乗って、3つ目の駅で降りた。
ココは、地元でも有名な治安の悪い場所。フリー区と愛称がつくくらいに、何もかもが無法地帯。
立ち並ぶ木造住宅に、入り組んだ路地。
一方通行しか通れないような狭い道路が乱雑に交差している。
どうしてこんな場所に来たのかわからないけれど、凄く怖い。
足が竦んで動けないよ………。
だって、お父さんから聞いたことがあるもん。
この町に昔、大きなやくざの組があって大変だったと。
今も、その残党とかいたらどうしよう?
いくら遙が喧嘩強くても、やっぱり怖いよ。
それに、やくざだけじゃなくて、私たちと同年代の子たちもすごくガラが悪いって聞いてる。
不安になって遙を見上げた。
遙は鋭い目をふんわりと優しく細めて曖昧な笑顔を作る。
「大丈夫、怖くないから」
つながれた指先を力強く握りしめて、遙は私を落ち着かせようとしてくれた。
不思議とそれだけで、不安が軽くなってしまう。
遙には、何か考えがあってココに連れてきたんだろう。じゃないと、悪戯に私を不安にさせたりするようなヤツじゃないもん。
気を取り直して、遙の指に答えるように私も強く握り返して、一歩踏み出した。
「あれ?遙くんっ?」
前から、いかにもヤンキーな刺繍入りのGパンに派手なシャツを着た男の子が話しかけてきた。
「おお、俊介。暇してるの?」
この前遙の部屋にいたオッドアイの男の子だ。
「今から太郎くんの家へ行く所」
…………。
もしかして、太郎くんの家ってこの辺りにあるの?
「そっか、じゃあ後で行くって伝えといて」
俊介くんと別れて、遙はドンドンと建物の密集した場所を歩く。
まるで地元を歩くように、ためらうことなく道を曲がったりしながら。
「よくこの辺来るの?」
さっきから思ってたけど、遙はかなりこの辺の道にくわしいみたい。
こんなに入り組んだ路地なのに、迷うことなく歩いている。
「まぁな」
いつ頃建てられたのか、判別不可能な程古そうな市営住宅の前で、遙は立ち止まった。
「アソコが、オレが生まれた場所だ。
今でもオヤジ側のジジイとババァが住んでる」
えっっ?
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