キス

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車に戻ろうと思い、ふと車の方を見ていると、明るい茶色の髪を腰の辺りまで伸ばした女が、僕の車を(正確にいうのであれば、僕の友人の車ということになるのだが)もの珍しそうに眺めていた。 僕の位置からは後ろ姿しか見えないので、その女の顔は見えず、年齢もわからないのだが、少なくともその身なりから、若い女であることはわかった。 僕はそのままそっと女に近づいて、声をかけた。 「その車がどうかしたの?」 僕の声に、女は驚いた様子で振り向いた。 年齢は二十代半ばといったところだろうか、透き通るような白い肌で、スラリと通った鼻筋とキラキラと輝く大きな瞳が印象的な整った顔立ちをしている。 僕がさらに女に近づくと、女は少し申し訳なさそうに車から離れてから言った。 「素敵な車だなと思って見ていたのよ。不快に思ったたのならごめんなさい」 「不快でも何でもないよ」 僕がそう言って微笑むと、女は一瞬、安心したような表情を浮かべて、それから眩しいくらいに輝く笑顔を僕に向けた。 「この車はあなたの車?」 「そうだよ」 僕は答えながら、嘘をついてしまったなと思ったけれど、通りすがりの女に何の悪意もない嘘をついたところで、僕にとっても彼女にとってもたいした問題はないだろう。 強いて言うならば、見栄を張りたいという僕の欲がほんの少しだけ満たされるだけのことで、それは決して悪いものではない。 「それでは、僕は行くからね」 僕がそう言って、運転席側に回ろうとしたそのとき、突然女が僕を呼び止めた。 「もしよかったら、私をこの車に乗せてくれないかしら?」 僕は女の申し出に少し戸惑っていた。 一人きりで深夜のドライブをするよりも、隣に綺麗な女がいた方が何倍も素敵な夜になることくらいは僕にだってわかっている。 だけど、どうして女が突然そのようなことを言い出したのかが僕にはわからなかった。
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