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ようやく海沿いの道に出た僕は、車を止めるのに適当な場所を探しながら進み、ようやく適当な広さの場所を見つけて車を停めると。
風もほとんど無いおかげで、波の音はひどく穏やかで、まるで時計の秒針の刻む音のように規則正しかった。
車を停めると、レイは完全に体の力を抜いて、僕にその身を任せた。
そして、下から上目遣いで僕を見上げる。
グロスでも塗っているのか、濡れたようにキラキラと光る唇が、いやに艶めかしく、そして、その唇の間から漏れる微かな吐息は、僕を獣にするには十分すぎるほどだった。
僕が腕にグッと力を入れてレイを抱き寄せると、レイは何の抵抗をすることもなく、すっぽりと僕の腕の中に収まり、僕の腕の中から大きな瞳で僕を上目遣いで見る。
僕にはもう、躊躇いも何もなかった。
僕が右手の指でそっとレイの顎を持ち上げると、レイは何も言わずに静かに目を閉じた。
僕はそのまま、レイの唇に唇をかぶせる。
僕の舌とレイの舌が絡み合い、いやらしい音を立てるほどの激しいキスだ。
レイは少し興奮しているのか、ひどく艶めかしい吐息を漏らす。
やがてレイの唇は僕の唇を離れ、僕の顎から耳へ、そして首筋へと舌を這わせながら移動していった。
このまま力づくで押し倒してしまおう、僕がそう思ったとき、突然首筋に激痛が走った。
だけど、その激痛はほんの一瞬だけで、すぐに言葉にできないほどの快楽が僕の身体全体を包み込む。
僕の身体は、快感のあまり痙攣する。
そして、ゆっくりと目の前の世界が揺れ始め、ぼやけ始め、やがて真っ暗になってしまった。
「ヴァンパイアが苦手なのはね、太陽の光なのよ。どんなにネオンの明かりで照らしたところで、太陽の代わりにはなりはしないわ。あんな都会でも十分に生きていける。むしろ、餌が沢山あって住みやすいくらいだわ。それではごちそうさま」
レイはそう言ってニヤリと微笑むと、口元から一筋の線を描いて垂れる赤い血を、右手の甲で拭った。
(完)
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