それぞれの10月15日②

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しかし男は表情をまったく変えずに父親に話し始める。 「やれやれ金か……今出すから手を離してくれ」 「分かればいいんだよ兄ちゃん。あんま俺を舐めてると痛い目にあうぜ?早くしな」 男はゴソゴソとロングコートの内ポケットからなにかを取り出そうと手を動かす。 もちろん父親は男が取り出すのは現金が入った財布だと思っているだろう。 しかし男が取り出したモノは財布でも現金でも、ましてやカードでも無かった。 「は……冗談だろ……え?」 父親はそう言うしかなかった。 なぜなら男が取り出したモノは今の日本ではあまり見かけることの出来ない代物だったからだ。 男の手には黒くて重たそうな銃が握られていた。 「冗談?」 男は不気味な笑顔で呟く。 「冗談なんかじゃないさ。正真正銘本物の銃だよ。撃てば人が死んで悲劇が生まれる。いつの時代もコレで多くの人間が狂い歪んでいった」 男は父親を嘲笑うかのように銃を構える。その銃口は父親の妻に向けられていた。 「!?」 父親の体から汗が吹き出る。 男が引き金を引けば妻の命は無い。 突然訪れた絶対的な恐怖に、父親から先程までの威勢の良さは消えていた。 「いいことを教えてやろう」 男は冷徹な目で呟く。 「これから誰かと戦う時は1人で居る時のみにした方が良いぞ?今みたいに家族を連れていると、こうやって人質にとられてしまうからな」 男は笑いながら引き金に力を込めていく。 「やめてくれ……!俺が悪かった!!……やめてくれ!!……!」 父親は震えながら男に謝罪するがもう遅かった。 男は冷徹に死刑宣告を父親に言い放った。 「誰かを護りながら戦うのは大変だろう?」 直後、パン……という乾いた一発の銃声が鳴り響いた。
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