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辺りに鉄の匂いが立ち込める。
ドロドロと妻の腹部からは真っ赤な血が滝のように流れ出ていた。
男の放った銃弾は妻の腹部のド真ん中に着弾していた。
「あ……あ…うぁ……」
妻は声にならない呻き声を上げてその場に倒れ込む。
父親は自分の妻の哀れな姿を見て、ただ立っているだけだった。
やがて父親の腹部にもガチャリと銃口が向けられる。
「……よくも……俺の女房を殺しやがったな……!?」
父親の口から最後の言葉が漏れる。
しかしそんな言葉は男になんのダメージも与えない。与えられない。
「お前も死ね」
再び銃声。
至近距離で腹部に銃弾を受けた男は悲鳴も上げずにそのまま倒れた。
夜の冷たい路面に広がる2人分の血。
立ち込める血の独特な鉄の匂いが男の鼻を刺激する。
残されたのは娘だけだ。
父親と母親の無残な姿を見て声も出せないでいた。
「パパ……ママ……?」
娘は必死に母親の体を揺らすが、母親はピクリとも動かない。
娘は絶望した顔で男を見る。
「よく聞け小娘」
男はそんな娘に話しかける。
「お前の親はバカだ。だからこうなった。悲劇は止められたはずだぞ?そいつらがキチンとした人間ならな……俺はいつでもお前の復讐を待っている。強くなって俺を殺しに来い。親の仇をとってみせろ」
男は娘にそれだけ言うとその場から立ち去る。
男は背中に娘の強い視線を感じながら歩いた。
そして遠くの方でパトカーのサイレンらしき音が聞こえる。
夜と言ってもまだ深夜ではない。
誰かに見られていて通報されたのだろう。
だが男にとってそんなことはなんの問題でもない。
しかし男は少し歩くスピードをペースアップさせた。
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