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彼女は先生に促されて、診察室の台の上で腹部を晒している。
『生理が来ない』
その言葉に、超音波で中の様子を見る事になったのだ。
画面に映るのは白黒の何かよく分からない、不明瞭な映像。その斑模様を切り取るように、小さな黒い瓢箪型の池が映っている。その隅に映る小さな丸。
先生はその丸をクリックして直径を測ると、彼女にこう告げる。
「10週目ってとこかな?」
彼女の瞳の奥底で、彼女自身が崩れていくのがはっきりと分かった。
「どうする? 堕ろすなら早い方が良いわよ」
彼女の年齢を考えて、そうするのが当然だと考えているのだろう。
彼女も、
「お願いします」
震える声で答えた。
「そう……。手術の書類には相手の男性のサインが必要になるから……」
その言葉に彼女が固まる。
相手が分からないのに……。
先生が私の視線に気づいた。
それで何かを悟ったのだろう。
「――それか、貴女は未成年だから保護者のサインね」
彼女はますます身体を硬くする。
私はその肩を優しく撫でると、言葉を挟んだ。
「私が保護者よ。この娘は私の妹なの。サインは私がするわ」
私の有無を言わせぬ言葉に、先生はそれ以上の言葉を続けなかった。
必要書類を看護師に持ってくるように指示する。
そして、私達三人になると小声で、
「警察には?」
そう尋ねてきた。
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