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「ねぇ、この刺青、こないだより広がってない?」
先生が言う。
「まだ途中だからね」
私がそっけなく答えると納得したのか、
「まだ広がるの?」
そう聞いてきた。
「んー、後少し」
「じゃあ、もうすぐ終わるのね?」
ウザい。
「多分ね」
「刺青は病気の元にもなるから、気をつけて」
余計なお世話。
「ん、分かった」
今回は癌検診も兼ねている為、検体の採取を行う。
その際、痛みに拳を握るが、何も感じなかったかのように会話を続けた。
カーテンの向こうにいる先生の表情は分からない。
内診が終わり診察台から下りると下着を身に着ける。そして診察室に戻った。
そこで先生から「結果は一週間後ね」と言われる。だが、来るつもりは毛頭ない。問題があれば、病院から連絡が来るのが分かっているからだ。
先生も分かっている。
この先生との付き合いは長いから。
薬の処方と医療費の計算をする間、私は足早に病院の敷地を抜けた。
最近の禁煙ブームで、建物内だけでなく敷地内も禁煙だ。
それに此処は妊婦が来る。駐車場を歩く間、ずっと煙草を咥えて我慢していた。
しかし敷地から一歩足を踏み出し、周りに人の気配がない事を確認すると、手にしていたライターでそれに火を点ける。
肺の中に煙を深々と吸い込むと、やっと気分が落ち着く。私は空を仰いで、吐き出した紫煙が空気中に霧散していく様を眺めていた。
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