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漸く煙草を一本吸い終わると、携帯灰皿で吸い殻を揉み消す。
最後の紫煙を吐き出し、名残惜しげにその煙を見つめた。
さて、そろそろ薬が出来ただろうか。
そう思いながらも、煙草をもう一本咥えて火を点けようとする。その時、とぼとぼと一人で歩いてくる少女の姿が目に入った。
私は咥えていた煙草を口から離すと元に戻す。
その少女に見覚えがあったのだ。
まだ新しい高校の制服を身に付けた、幼さの残る少女。無事に受験を終え、高校に入学する事が出来たのだ。
あの事を乗り越えたと思っていたかった。
しかし、彼女は一人で此処にやって来た。
不安と恐怖の同居した、儚い表情で。
私の存在にも気づかない程に怯えている。そして立ち止まった。病院に視線を向けているが、入るかどうか躊躇しているのだろう。
本来なら私は他人と関わるのは煩わしい。しかし、彼女とは一度関わってしまっている。
私は彼女が気になって仕方がなかった。
「どうしたの?」
意を決してそう声をかけると、少女は心底びっくりしたようだ。しかも恐怖を感じている。それは、その真っ青な顔色からも窺える。
彼女は私の顔は忘れているに違いない。そう思っていた。
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