36人が本棚に入れています
本棚に追加
「はじめまして、遠藤命(えんどう みこと)と言います! 先月に越してきて、今年度から皆さんと同じこの和桜高校に通うことになりました! よろしくお願いします!」
道に迷っていた、あの少女だった。
突然の美少女の登場に男子諸君は歓声をあげた。
悠里はというと、無言無表情のまま手だけを机の下で小さくガッツポーズしていた。
まさか本当に同じクラスになるとは。
彼女はしばらく教室を見回した後、悠里に気づきあっと声をあげる。
「君も同じクラスだったんだ~! これからよろしくね!」
彼女は、当たり前のように俺に話しかけてきた。
朝のは夢じゃなかった。
それがたまらなく嬉しくて、今度こそちゃんと返事をしようと思った。
が、
クラス内が瞬間、静寂に満ちた。
悠里はそれを感じ取り、気持ちが声になる前に留める。
彼女は、突如変わったクラスの空気に戸惑いを覚えているようだ。
あぁ、そうか、と。
悠里は、思い知った。
〈キラワレモノ〉の俺には。
世間が、社会が、世界が。
友を持つことすら、許してくれないのだと。
もし、今悠里が普通に挨拶して話そうものなら、彼女はきっと悠里と同じ扱いを受けることになるだろう。
〈キラワレモノ〉の仲間として。
そんなこと、悠里にやれるはずがない。
彼は〈キラワレモノ〉として生きるには優しすぎた。
だから。
「……何のことだ?」
知らないふりをした。
「えっ……?」
「まぁとりあえず遠藤は座れ。これからお前らの自己紹介だ」
彼女が驚きを顔に出すと同時にマルガリータが話を進め、悠里の隣に座らされた彼女はただただ混乱していた。
そして、クラスの自己紹介が始まった。
当然の如く、悠里の出番はなかった。
最初のコメントを投稿しよう!