プロローグ

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   それはまだ、彼が小学校に入る前のことだ。  彼は孤児院で、一人だった。  室内の広い遊び場の中で、扉から一番遠い部屋の隅に座っていた。  そこが定位置だった。  他の子供・大人には、徹底的に無視された。  誰かに意地悪をしたわけではない。  ただ、常にいない存在として扱われていた。  それが当たり前だった。  でも、小さかった彼は時々寂しくなって、孤児院の仲間たちに必死に話しかけた。 「ねぇ。いっしょにあそぼ?」  すると他の子供たちは、何も言わず睨むような視線を彼に突き刺し、離れていった。  仕方なく施設の大人と遊ぼうと、歩いていく。  だけど、返ってくる反応は決まっていた。 「チッ…………」  冷たい視線と、舌打ち一つ。  そのまま、他の子供たちと遊び始める。  彼は何も言えないまま、再び部屋の隅に戻っていった。
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