第一章

5/26
前へ
/73ページ
次へ
 ふと、視線の端に入ったものがあった。  それは、困っている様子の少女。  遠くからなのでよく分からないが、見た感じ同年代だろう。  綺麗に整えられた闇色の髪を風になびかせながら、辺りをキョロキョロとしている。  どうやら迷ってしまっているようだ。  だが悠里は我関せずの念で善意を押し殺し、何事もなかったように歩きだした。  理由は簡単。  近くにいれば避けられ  話しかければ無視され  ついには視界に入るだけで舌打ちされる。  そんな対応しか、悠里は受けたことがなかった。  店の店員だろうが  学校の教師だろうが  その辺歩くサラリーマンだろうが  そんなのは関係ない。  なぜか悠里は、"理由もなく人に嫌われた"。  だから、人助けしようが罵倒される。そんなことは経験済みだし、もうごめんだった。  そして少女の横を通り過ぎる。 「あの、すみません」  お、どうやら少女は他の人に助けを求めることができたようだ。 「あの~、そこの人~」  見過ごした罪悪感が少し薄れる気がし「あの!」……俺のことか? まさかな。  一応、振り向いてみる。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加