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「すいません。あの、道を尋ねたいんですけど」
そこには、自分に"普通に話しかける"先ほどの少女がいた。
嫌そうな雰囲気も見せず、本当に、普通に。
しかも相手はかなり可愛い女の子。
長い闇色の髪。
同色の大きな、気の強そうな瞳。
すーっと通った鼻筋。
薄いピンク色の唇。
少し小柄で細い体格に、髪や瞳と対照的に白い肌。
同年代の中では、確実かつ圧倒的に綺麗だった。
少なくとも学校では見たことがない。
目を奪われた。
――ってそうじゃなくて、どんな子が話しかけてきたかよりも。
悠里には、当たり前に話しかけられているという事実の方が驚きだった。
何せ悠里には、生まれて初めての出来事なのだから。
「? あの~……?」
「え、あぁ、え~っと、どこに行くんだ?」
意識を現実に戻し、自分なりにちゃんと受け答えする。
呂律がまわっていないのは、人と話すこと事態に慣れてないからだと思って勘弁してほしい。
と、そんな心情が伝わったのか特に突っ込まれることもなく、少女の表情がぱぁっと輝いた。
「あの! 和桜高校ってところなんですけど、まだ引っ越してきたばっかりでよく分からなくなってしまって」
初めて見る、自分に向けられた嬉しそうな表情に思わずドキリとする。
それは少女の顔が端整なだけでなく、単純に嫌がりもせず自分を頼ってくれる人がいたことに感動したのもあるだろう。
なんだか心がほんわりして、思わず顔にでそうになったがそこは我慢した。
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