36人が本棚に入れています
本棚に追加
……あれ? てか和桜? うちの高校じゃないか。
よく見ると、少女はうちの制服を着ていた。しかも二年生の学年色の赤のリボンをつけて。
「和桜なら、連れて、いこうか? 俺、一応、そこの生徒だし」
緊張で声が震える。視界に入るだけで煙たがられた男がこんな言葉を口にするんだからしょうがないだろ?
「え、本当? もしかして二年生?」
そんな悠里の様子など気にせず質問してくる少女。
悠里は緊張で震える手を背中に隠しながら、頷いた。
「じゃあ同級生なんだね!」
そう言って、少女はにぱぁっと笑う。
……これは夢か? こんな可愛い子が俺に笑顔だと?
悠里は段々頭が混乱してきた。
何せ、今まで駅前に行くだけでヤンキーに絡まれ、それを警官は素通りし、ついには道行く誰かに鼻で笑って去って行かれたようなことが当たり前だったのだ。
「どうかしたの?」
「……いや、何でもない」
まぁ、夢なら夢で今この瞬間を楽しもう。
きっと夢だろうけど、こんなことでも人と話すのは楽しい。
そう思うと少し気が楽になった。
「えと、じゃあ案内頼めるかな?」
「分かった。でも、時間的に、あんま余裕ないから、少し、急ぐぞ」
彼女が頷くのを確認して、早歩きくらいのスピードで来た道を戻っていく。
始業式が始まるのが九時半で、悠里が向こうを出たのが八時二十分。うちから歩いて四十分かかる距離を考えると、あまり余裕はない。
正直ゆっくりとこの時間を楽しみたかったが、それでは少女に失礼だ。
たとえ夢の中でも、初めて笑顔を向けてくれた相手にそんなことするつもりはない。
急がねば。
最初のコメントを投稿しよう!