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「ふざけんな……ッ!!」
電源を切って、もう一度電源ボタンを押し、電源を付ける。
電波が通じておかしくない場所で圏外だった時は、この方法を使えばアンテナが立つ。実際に蓮次も何度かこの方法で、携帯に電波を通す事に成功している。
電源ボタンを押して、五秒。
その果てしなく長く感じる五秒が経つと、携帯から初期設定のスタートアップ音が流れ、契約会社のロゴが画面に映り、すぐに蓮次が設定している待受画面になった。
そして、再び電波を確認してみると───
「圏外……」
盛大な溜め息を吐いて、自身を落ち着かせる。
(落ち着けよ……一杉蓮次……)
胸に手を当てて、まるで全力で走った後の様に激しく動く心臓の動きを感じ、いつの間にか荒くなっている息遣いを、深呼吸で何とかした。
そして、蓮次が本当に落ち着くまで、それは夕暮れが完全な夜になるまで、時間にして三十分程度、延々と繰り返されていくのだ。
「あ、人間みっけ」
蓮次が落ち着きを取り戻して、数分経った頃だろうか。これからどうするべきか考えていた彼の後ろから、そんな少女の声が聞こえた。
反射的に蓮次は後ろに振り返るが、道の上には誰も居ない。
気のせいかと、蓮次が自己解決しそうになった時、また声。
「おーい、気付いてないの?」
した、明らかに声がした。だが声がしたのは今蓮次が向いている方向だ。なのに、彼の目の前に伸びる道に、人影はどうしても見えない。
じゃあこの、まるで上から降り注がれる様な声は一体何なのか。
(降り注がれる……上から……?)
ようやく声の違和感に気付いた蓮次は、地面と平行にしていた視線を上に向ける。するとすぐ近くに、距離にすると蓮次の一メートル程斜め上に、一人のピンク色の髪の毛をした、ショートカットの少女の姿があった。
だがその少女、何かが変である。
まず第一に、宙に浮いている事。
第二に、その少女の背中から、二対の翼が生えていて、時々その翼をはためかせていた事。
そして第三に、少女の言った言葉の事。
──“あ、人間みっけ”
まるで、自分が人間じゃない様な言い方。
この少女に翼が無く、地に足が付いていたならば、蓮次はそんな言葉、気にもしなかっただろう。だが現にこの少女は、人間とは思えない動作を行っているのだ。
「人間じゃ、ない……!?」
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