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「ああ、どうせアンタはスキマ妖怪に連れてこられた奴でしょ?」
また新しい単語。
(異世界、結界の次は妖怪かよ……)
「スキマ妖怪はね、八雲 紫っていう名前なんだけど、時々こうやって外来人を連れて来るのよ。私もたまにアンタみたいな奴を見掛けるわ」
「そういうお前は何なんだ? 鳥人間か?」
結構真面目に言ってみた蓮次だったが、言われた少女は聞いた途端に、お腹を抱えて大笑いしていた。
「キャハハハ! 鳥人間って……! 私も、その妖怪よ」
「いや、だって翼無かったら、完全に人間の女の子だぞ、お前」
「そうよね、だから警戒しない馬鹿な人間が居て、襲いやすいのよね」
「だからそれは───」
その時、蓮次の言葉が不意に止まった。
今、この少女は襲うと言った。しかも、人間の姿っぽいから、警戒しない馬鹿な人間とも言った。
まさしく、今の蓮次そのものではないか。
──ということは、今蓮次は、かなりヤバイ状況下に置かれているって事で……
「俺を、襲うのかよ……」
一歩、蓮次は後ろに後ずさった。
今までは、少女から視線を外して、周りを見ていたりもしていた蓮次だったが、今はそんな事、出来るワケが無い。
蓮次を見下ろすこの妖怪から目をそらすなんて、自殺にも等しいのだから。
………………
しばらく沈黙が続き、お互いに目を離さずにいたその時、少女は一つ、溜め息とも取れる息を吐いた。
「はぁ……、そうね、最初はそのつもりだったんだけど、何となくアンタの事が気に入ったから、襲わないであげる」
「そりゃ、どうも……」
どうやら、襲われずに済んだ様だ。用心深い人間なら、それでも疑うのだろうが、生憎と蓮次はそれが必要になる生活を送ってきてはいないので、少女の言葉を信じきっている。
「それで、アンタを襲わないと決めた私は、アンタを人里に送ってあげようと思うんだけど、どうする?」
「ああ、頼むよ、ありがとう。……えっと」
そういえば、名前を聞いていなかったと、今になって蓮次は思い出していた。
「ミスティアよ、ミスティア・ローレライ。アンタは?」
と、名前を聞く前に自ら名乗ったミスティアに、少し呆気を取られた蓮次だったが、すぐに我に返りミスティアからの問いに答えた。
「──俺は、一杉蓮次って言うんだ」
こうして、この幻想郷の世界に落ちて、堕とされた一杉蓮次の物語が、始まる。
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