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ただ地面を慣らしただけの、そんな土の道を十数分程度、蓮次はミスティアという妖怪と共に歩いていると、遠い前方に、高い塀に囲まれ、その中に建物が幾つも建っているのが見えた。
辺りはもう暗い為、ここからだと蓮次には正確な建物の造りは解らない。
「あれが、人里か?」
「うん、着いたら出入口の見張りに、外来人だって言えば、案内してくれるわ」
そこで蓮次は、ミスティアの口振りが、なんだか妙な事に気が付いた。
まだ人里まではまだ距離がある。なのにミスティアはここで人里に着いた時の事を説明して、まるで───
「一緒に、来ないのか?」
「うん、ただでさえ元々私達を毛嫌いする奴らは居るし、最近はもっとヤバイのが居るって聞くから」
「ヤバイって……」
「ま、アンタには関係無い話よ。だから私の案内はここまで、後は一人で頑張んなさい。多分、アンタなら上手くやっていけるわよ、蓮次」
そう言って、ミスティアはニコリと可愛らしく笑顔を作り、パタパタと翼を小さくはためかせて見せた。
その姿がなんだが微笑ましくて、蓮次も顔にも自然と笑みが溢れる。
「ああ、ありがとうミスティア」
「良いわよ、別に」
ミスティアはそう言って軽く会釈すると、小さくはためかせていた翼を大きく羽ばたかせ、大きな風圧を生み出しながら空高く飛び上がっていった。
顔に迫り来る風圧を腕で守っていた蓮次は、腕を降ろし、しばらく既に小さくなっているミスティアを見ていたが、もう彼女が小さな点にしか見えなくなった所で振り返り、前方に見える人里に向かって、歩き出す。
.........
一杉 蓮次は平凡な人間ではない。少しずれている人間だ。だが蓮次自身、平凡であろうとしている。故に目上の者や初対面の人に対しては、えらく低姿勢になる。
だから蓮次は人里に着いた今、ミスティアに言われた通り、見張りの中年男性に声を掛け、「外来人なんですけど……」と軽く説明していた。
「ふむ、外来人か。慧音さんの所に行けば、しばらくは何とかしてくれると思うぞ」
「慧音さん、ですか?」
「ああ、人里の、警護団のリーダーだ」
名前からして、女の人だろうなと適当に想像し、同時に女の人がこんな大男達を束ねるなんて、どんな強面な人なんだろうかと、ある意味失礼な想像もしていると、蓮次の前に、筆で書かれた地図が出された。
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