人の住む里を統べる半獣

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「これが、人里の地図だ。今いる場所がここ、慧音さんの家はここ、解るか?」 「はい、まぁ何となく……」  蓮次は男から地図を受け取り、再度それを確認する。  ここ―――人里の西出入口からその慧音という人物の家までは案外単純で、人里を初めて歩く蓮次でも着く事が出来そうだった。 「じゃあ、行きます」 「ああ、気を付けてな」  男に軽く会釈すると、蓮次は歩き出す。  夜の人里は、人通りが全く無かった。というか、道を照らす灯りは、家から微かに漏れる光だけ夜空を見れば無数の星が見えた。  が、蓮次に星座云々の知識も、興味も無く、彼の視線と言えば、人里の建物に向けられている。  人里の建物は、昔ながらの木造建築で、二階建てなんて家自体が存在していないのだ。 (っていうか、電気とかどうしてんだよ……)  家から漏れている光を見るに、人工的な、蛍光灯を使っているのが大体予想出来ていたが、家の造りは古めかしくて、家材は現代って、なんかシュールだなぁ……。と思う蓮次であった。  そうこうしている内に、慧音さんの家に到着。  他の家よりもかなり大きな家だったので、見分けはすぐに付いた。玄関の扉の中からは光が微かに漏れていて、在宅中という事が解る。  後は、扉を叩いて、その慧音さんとらを呼び出すだけなのだが…… (結構、勇気がいるよな……)  慧音の事を、強面の女性と思い込んでいる蓮次は、扉を叩く、たったそれだけの行為をやたら臆していた。 「うぅん……」  唸りながら、扉の前を行ったり来たりする蓮次。  最終的に、選択肢は扉を叩くしか無いのだが、それでも蓮次はビビって扉を叩けないでいた。  そして、扉の前でうろちょろする事、約十分。  とうとう意を決した蓮次が、扉を叩こうとした、その瞬間。 「さっきから、私の家の前で何をしている?」 「――!」  蓮次が扉を叩く前に突然、ガラッと扉が横に開き、中から一人の女性が現れた。  女性の言い方からして、慧音という人物なのは明らかだった。しかし……  ――彼女は蓮次が思わず見とれてしまう程に、美しかったのだ。
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