11人が本棚に入れています
本棚に追加
「これが、人里の地図だ。今いる場所がここ、慧音さんの家はここ、解るか?」
「はい、まぁ何となく……」
蓮次は男から地図を受け取り、再度それを確認する。
ここ―――人里の西出入口からその慧音という人物の家までは案外単純で、人里を初めて歩く蓮次でも着く事が出来そうだった。
「じゃあ、行きます」
「ああ、気を付けてな」
男に軽く会釈すると、蓮次は歩き出す。
夜の人里は、人通りが全く無かった。というか、道を照らす灯りは、家から微かに漏れる光だけ夜空を見れば無数の星が見えた。
が、蓮次に星座云々の知識も、興味も無く、彼の視線と言えば、人里の建物に向けられている。
人里の建物は、昔ながらの木造建築で、二階建てなんて家自体が存在していないのだ。
(っていうか、電気とかどうしてんだよ……)
家から漏れている光を見るに、人工的な、蛍光灯を使っているのが大体予想出来ていたが、家の造りは古めかしくて、家材は現代って、なんかシュールだなぁ……。と思う蓮次であった。
そうこうしている内に、慧音さんの家に到着。
他の家よりもかなり大きな家だったので、見分けはすぐに付いた。玄関の扉の中からは光が微かに漏れていて、在宅中という事が解る。
後は、扉を叩いて、その慧音さんとらを呼び出すだけなのだが……
(結構、勇気がいるよな……)
慧音の事を、強面の女性と思い込んでいる蓮次は、扉を叩く、たったそれだけの行為をやたら臆していた。
「うぅん……」
唸りながら、扉の前を行ったり来たりする蓮次。
最終的に、選択肢は扉を叩くしか無いのだが、それでも蓮次はビビって扉を叩けないでいた。
そして、扉の前でうろちょろする事、約十分。
とうとう意を決した蓮次が、扉を叩こうとした、その瞬間。
「さっきから、私の家の前で何をしている?」
「――!」
蓮次が扉を叩く前に突然、ガラッと扉が横に開き、中から一人の女性が現れた。
女性の言い方からして、慧音という人物なのは明らかだった。しかし……
――彼女は蓮次が思わず見とれてしまう程に、美しかったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!