世界を救う医者

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それはそう、まだ数時間前の昨日の出来事。 僕はいつものように帰宅する最中だった。その際、突然、年上のお兄さん達に話しかけられたのだ。 普段から僕は敵を作らないように努力して、今まで喧嘩をしたことはないし、誰かと争った事もない。けれど、やっぱり生きていれば偶発的に、無差別に敵と出会ってしまう事もある。 今回がいい例だ。彼等にとって味方以外は皆敵なのだろうと僕なんかは思う。さてさて、話を戻しましょう。 いたいけな少年である僕に、年上のお兄さん達が好意で話しかけてくるなんてことは滅多にない、と13歳である僕の経験上から言っても明瞭だった。 ならば、さて。なぜ彼等は僕に声を掛けたのだろう、と聞かれれば、それはきっとロクな事ではないのだろう、と僕は思った。 しかし、僕はそのまま否応なく彼等に連れて行かれてしまう。質問が出来る空気ではなかったし、恐らくきっと彼等も易々と答えはしないと思ったからだ。 だから、僕は仕方なく彼等に従い、歩き続けた。やがて、路地に入り、ビルに入り、その一室に入る。ここまでくれば、おおよその予想は付くというものだ。 さて、と。僕は次に発せられる彼等の言葉を予想する。 ──大人しくしろ。騒がなければ、手は出さない   「大人しくしろ。騒がなければ、手は出さない」 やれやれ、と僕は思う。 一文字も違わず、一言一句、予想した通りだった。   「キミは俺達が誘拐した。なに、キミの両親が払うものを払えば、ちゃんと解放するから安心しろ」 誘拐・・・。あぁ、いつかこんな事になるかもしれない、という予想はしていた。自分で言うのもなんだけれど、僕の家はお金持ちである。 父は大きな病院の院長で、兄はその病院の医師だ。それを聞いただけで誰もが金を持っていると思うことだろう。実際、僕自身、なんの不自由なく生きてきた。 自他ともに認めるお金持ちではあるけれど、大富豪というほど金があるわけではない。家にはメイドや執事どころか家政婦もいないし、そこまで大きな家にも住んでいない。 大金持ち、というより小金持ちである僕の家は、彼等の様な小悪党にとっては格好のカモなのだ。ほどほどの金額ならリスクも少なく手に入れられる、という考えなのだろう。 僕は心中で笑う。彼等の浅慮を。数ある金儲けの中で、誘拐を選んだことを。いくらリスクを少なく見積もっても、所詮は成功率の低い犯罪だ。
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