初めてのお使い〓ドライニア潜入〓

9/28
前へ
/160ページ
次へ
まだ、幼い頃。 同期の中でも、それほど強く無かったオレは練習が終わる度に泣いていた。 「なぁ、誠慈」 稽古が終わり、道場にある縁側で風に当たって休んでいたオレに、祖父が話し掛けて来た。 「なに?おじいちゃん」 「誠慈はどうして武術なんかを習おうと思った?」 何て事の無い質問。 だけど、その時の祖父の目は真剣だったのを覚えてる。 「ぐすっ…えっとね、この人みたいになりたい!」 当時、ハマっていた漫画を持ち出し、主人公を指差す。 漫画の内容は…良く覚えていないが、主人公は敵を容赦無く切り捨てて、それが堪らなくかっこ良く見えていた。 祖父は真っ直ぐに此方を向いていた。 「想像の物に憧れるのもいけないことでは無い。例えそんな理由でも、私はお前がこの流派を習いたいと言ってくれた事、本当に嬉しかった」 「…でもね、けいこしてておもったんだ」 「ん?」 開いていた漫画を閉じて、目を伏せる。 「なぐられればいたいし、なぐっても自分のて、いたいんだ」 「…誠慈」 オレの頭に大きな、ゴツゴツとした掌が乗せられる。 「人を傷付ける事に何の抵抗も感じなくなってしまえば、其奴はもう人間とは呼べない」 真剣な目が優しくなり、祖父はオレに微笑んでくれた。 「人は殴られれば痛いし、殴っても痛い。それが分かっていれば、誠慈はきっと本当の意味で強くなれる」 ゴツゴツした掌は、オレの髪の毛をかき回した。 くすぐったかったが、心地よく、オレは目を細める。 「男なら、やらねばならない時が来るかもしれない。自分の身を守るため、大切なナニかを護るため…でも、今誠慈が感じている「それ」を大事にするんだよ…偽りなく、弱き者を助ける。そんな願いが、誠慈の名前には込められているのだから」
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1075人が本棚に入れています
本棚に追加