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追手が来る前に掘っ建て小屋を離れたオレ達はネイトが隠れ住んでいたという、横穴に居た。
「はぁ…」
溜め息が溢れる。
殺していないとは言え、未だ手に残る痛みは、久しく忘れていた「人を殴る痛み」…
もしかしたらオレが殴った兵士は、骨が折れているかも知れないし、旋蹴楽で蹴り倒した兵士は打ち所が悪くて死んでいるかも知れない。
一度は決心したが、今になって手が震える。
理学療法士の試験に受かったとき、これから先の人生でどれだけの患者様を動ける様に出来るのだろうかと、思いを馳せた。
そんなオレが、人の身体を壊す行為をしたのだ。
いくらやらねば殺られる状況だったとしても、だ。
岩に腰かけたオレの足下にはオービィが踞り、心配そうに此方を伺っている。
さっきまでオレを慰めてくれていたキースさ……キースも、信用していた各地区の代表が殺された、或いは裏切った事に落ち込んでいるネイトのフォローに当たっている。
痛む右手中指にはまったラブの指輪が目に入った。
「リーナ…」
頭に浮かぶ、少女の顔。
口数は少ないが可愛いらしい顔がコロコロと変わるのを見るのは、とても楽しい。
そんなに長く一緒に居たわけでは無いし、ステッドマンで別れてからも、まだ半日ぐらいしか経っていないはずだ。
それでも、無性に。
「会いたい……」
そんな思いで右手を強く握るが、距離が有りすぎるのかラブの指輪の能力は働かない様だ。
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