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「うぅぅ…」
人間は呻いた後に声を上げるのを止めて、肩を抑えたまま動きを止めた。
……死んではいないだろう。
大きな血管は避けたはずだ。
残念ながら、俺にはご主人の様な体術は使えんし殴り倒す拳も持たん。
魔物である俺にあるのは噛み殺す為の牙と、八つ裂きにする為の爪しか無い。
だが、俺にはご主人の命令は絶対であり、何よりここで「人間」を殺してしまったら俺はご主人に見限られてしまうような気がした。
「この、魔物ごときが!」
更に一人が襲って来るが、振るう武器の速度は遅い。
ふん、ウサギの魔物の方がまだ良い動きをするぞ?
前方に駆け、人間の右足すれすれを通って武器を避け、ついでにアキレス腱を爪で切断する。
ご主人が奥様に、この部分が切れると人間は立つのも儘ならなくなると言っていた。
その通り、激痛が走ったのか人間は出血している箇所を抑えると悲鳴染みた声を上げた。
「ひぃ、ひぃぃ…!!」
近くに居た人間を睨み付けると、何を恐れているのか情けない声を出している。
あの人間の目は、絶対的強者に出会ってしまった草食動物の目だ。
それも、あまりの恐怖に逃げる事も出来ない、言うなれば、牙の抜けたネズミ。
『自然界にも貴様の様な生き物は居なかったぞ』
人間には唸り声に聞こえただろう、俺の声に人間は固まった。
『情けない奴め!』
飛び掛かり、地面に倒し、先程肩を噛んだ返り血の付着した顔を近付ける。
『このまま喰い殺してくれる!』
俺の唸り声に臆したのか、人間は声すら出せずに泡を吹いて気絶したようだ。
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