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バイト先の『Because』に着くと店長が無言で近寄ってきた。いつも軽口のひとつも飛び出すんだけど。
「死んだってよあの子」
「……」
僕を何故か指名してくれていた女性。そうか……死んだのか。
「昨日なんか言ってたか?これと言って原因が分からないらしいんだよ」
「よく分かりません。ただ」
「ただ?」
なぜ僕はそんな事を言ったのか。空気を読まないどころじゃない。
完全に敵を作る一言。
「うらやましいです」
「……」
店長の目が見開かれ、僕は『ああ、殴られる』と他人ごとのように思った。
「香川」
「はい」
「てめえ今日帰れ。で、鏡を見て」
・・・・・・・・・・・・・
その死人の顔をなんとかしろ
それだけ告げられ僕は店から追い出された。
そのままの勢いでヤニ臭いエレベーターに乗り回数表示を睨む。
…………。
がん!
僕はエレベーターの扉に頭を思い切り打ち付ける。
がんがん!
そんなことするつもりはなかったのに。
いてて……ほらな。
こんなに力任せにぶつけたら、そりゃ血も出るよ。
がんがんがんがん!
「っ!」
僕は……一体……
『なんで生きてるの?』
早百合。
『思いやりもないくせに』
ないな、確かに。
『ねえお兄ちゃん』
なんだよ
『死ねば?』
「……………………」
『なに?聞こえないよお兄……』
「…………………………」
もごもごとただ唱える。
必死に。
僕は……少しずつ冷静さを取り戻す。
よし。
早百合も消えた。
唱えた呪文は効いたらしく、でも早百合が消えたからと言って僕がクソヤロウである事は変わらない訳で。
僕はビルを出ると、ふらふらと雨の繁華街を歩き出した。
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