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車の騒音さえ掻き消すようなどしゃ降りの中で僕は雑巾の気持ちを味わっていた。
ズブズブと歩く度に不快感の増す靴の中。
もうなんかどうでもいい。
ふらふらと歩く僕の脇で綺麗に磨かれたコンビニエンスストアの自動ドアが開く。
どうやら開けてしまったらしい。
「…………」
僕がおもむろに入店すると
「いらっ……しゃいませ」
ずぶ濡れの僕を見るなりドン引きする店員さん。
これもどうでもいい。
「ありがとうございました」
『傘買わないのかよ』という無言のツッコミは無視し、僕はガサガサとビニール袋から購入した品を取り出した。
ポコッと蓋を外しニュルニュルとひねり出す。
笑顔の女性のラベルのついたキューティクル配合のソイツを一気に頭へ。
ガシガシと乱暴に髪を掻き回す。僕は昨日帰ってないので、お風呂に入っていなかったから。
「……きゃっ」
ああ、すいません。
繁華街なので人にぶつかってしまった。
でも僕は昨日風呂に入ってないので、この雨を利用してるんです。
ガシガシガシガシ。
ふらふらと歩き出す。
繁華街の歩道の人達は見事な程二つに割れ、僕の進路を空けてくれている。
キリスト気分を味わえるとは。
…………。
チカチカとネオンは目に飛び込んでくるが、僕は手を動かし続ける。
もう分からない。
なぜ僕は昨日女性に何か言ってあげなかった?
彼女はなにか言って欲しかった。そんなの分かってた。
ガシガシガシガシ
口下手が理由になる?なる訳ない。
ガシガシガシガシガシ
うらやましい?本当に?
ガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシ
ガシガシガシガシガシガシ…………
「……香川……君?」
「え?」
ずぶ濡れ具合では僕同様。
ただ頭に泡の乗っていない少女が割れた筈の歩道の真ん中に立っていた。
「……亜印さん」
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