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僕はがちりと重たい音を立て誰もいない家の中に入った。
大きな下駄箱には僕の靴が二足あるだけ。
底冷えする家の中には物音ひとつ無く、静寂だけが寝そべっていた。
居間に入りなんとなくテレビを点ける。見たい番組なんか無く、知りたい情報だってないのに。
喉を潤すため台所に行き、ガラガラであろう冷蔵庫をがぱんと開けるとペットボトルが二本入っていたのでその一本を取り出す。
キャップをくるくると回しながら、やはり飲む気が起きなくてテーブルに置くとテレビの前のソファーに沈み込んだ。
家の中の景色は何故か白黒でテレビの音も聞こえない。
「……」
何の。
何の感慨も無い。
劣等感と敗北感だけが僕の中でぐるぐるととぐろを巻く。
別にいい。
『……から女の子が』
不意にテレビが色彩を放った。目に毒々しい程の刺激を感じ、眩い光の像を読み取る。
『屋上から今!女の子が、危ないっ!』
光の中には見知った女の子。
ヒステリックなおばさんがマイクを握り締めがなり立てる。
『今消防隊が到着しました!梯子車を準備しつつ警官が屋上に……今到着したようです!』
亜印さんが、いた。
僕はテレビの中の亜印さんを眺めながら少しずつ考える。
彼女には彼女の世界があって人知れず悩みだってあるだろう。死を選択することが無いなんて誰が言い切れる?
僕らは似てない。
最初は似てるのかとも考えたけど。
彼女はどうしようも無く『女の子』で、ただそれだけで。
僕はバカで思い遣りも無く、人の気持ちだって分からない。
そして、僕らは別に愛し合っていた訳じゃない。
でも、だ。
それでも彼女は僕に助けを求めていた。
僕は何度も何度も数え切れないくらい彼女に救われていたのに。
バカとか暗い上に恩知らずまで加えて、僕は今から死ぬんだろうか?
それはちょっと……嫌だ。
僕は彼女に会った時から今までずっと。
楽しかったんじゃなかったか?
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