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僕は頭を真っ白にしたまま靴を履き、ドアノブを掴む。
考えるな考えるな。
いつか亜印さんが言ってたじゃないか。
『香川君は香川君の意思で動いてる訳じゃない』
だから。
僕は僕がどんなにバカでクソヤロウだったとしても、そんなの関係ない。
動ける筈なんだ。
僕は学校に行かなきゃいけない。いや、考えるな。
ただ今は動く事だけに集中するんだ。
僕は玄関を出る。
いつもの景色。僕の『芯』だけが行き先を示す。
そうだ。
僕の行き先はその向こう。
『どこ行くのお兄ちゃん』
道の真ん中で立ちふさがる早百合の、その向こうなんだ。
『死ぬんじゃなかったの?』
止めたんだ。
死ぬのはまた今度にする。やること出来たんだよ。
『お兄ちゃんが1人で車出ちゃったからお父さんもお母さんも私も死んだんだよね』
崖の上でガードレールを突き破り危ういバランスで踏みとどまる。
あの時、確かに僕は。
『蹴ったよね。車のドアを蹴って自分だけ助かったよね』
バランスを崩した車は崖下へ一直線。忘れた事などない。
忘れられた試しなんか無い。
『じゃあ早く死んで』
………………。
『お兄ちゃんだけ生きてるなんておかしいよね。ずっとそう思って来たんでしょ』
……………………。
『なんで黙ってるのお兄ちゃん?もうアレ効かないから。私消えないよ?』
……………………。
『ねえおに』
「……るせえ」
呪文で消すなんてしない。
もう亜印さんの力は借りない。
やっぱり体は勝手に動いたりしなくて……僕は僕の意思で動かすしかないみたいだよ。
亜印さん。
「僕は……早百合達が死んでも泣いてない。泣く権利も無い。僕が殺したんだから」
早百合の気配はまだすぐ先にある。動けよ僕の口。
口下手なんて言い訳はしない。僕は僕の思った事をさけぶ。どう思われようと。
「邪魔するな。恨みつらみなら後で聞いてやるよ。そのあとで呪うなり祟るなり勝手にしろ」
まだだ。
体を動かす決定打。
早百合に致命的な一言を。
「…僕は……忙しいんだっ!
・・・・・・・・・・
死んでる暇なんかないっ!」
途端、風に巻き上げられたように僕の体は早百合を突き抜け走り出した。
僕は
確かに僕の意志で
学校に向かう。
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