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「少しだけチクッとするけど構わないわよね」
「……お願いだから刺す前に聞いて下さい亜印さん」
怪しげな人体実験を繰り広げる高校生の男女。
僕の手首に電極を嬉しそうに刺す女の子……亜印さんは何故か偶に僕を呼び出し、おかしな実験を繰り返すのだ。
「あら、いいじゃない。私香川君の立ち昇る『どうでもいい感』気に入ってるのに」
「そんなもの出てます?」
「ええ、銭湯の煙突の煙みたいにね。遠くからでも香川君が居るの分かる」
クスクスと笑みを浮かべる亜印さんは、差し込む夕陽に照らされて赤く、怪しく染まっていた。
「で?今回は何の実験なんですか?」
なんでこの女の子は僕に構うのか。
亜印さんはこのイカレた趣味や怪しい言動をさっ引いても十分に男子生徒の目を引く。
「香川君は『他人の手症候群』って知ってる?」
亜印さんの言動は恐ろしく難解だ。しかもめったに説明をしない。
「知ってる訳ないです。僕は亜印さんと違って好きな言葉は『平均値』なんです」
「聞きたい?」
一瞬僕の身体はピクリとする。椅子に座った態勢の僕の鼻先に亜印さんの鼻先が触れる寸前まで顔を寄せられたからだ。
ふわりと舞う黒髪からは不釣り合いな桃の香りが漂う。
イメージ的にはタイとかのお香か、線香の方がしっくりくるんだけどな。
「ねえ聞きたい?聞きたくない?どっち?」
知ってか知らずか、こういう無邪気な立ち居振る舞いは無防備に過ぎると思う。
「聞きたいで……」
「しょうがない。そこまで言うなら教えちゃいます。感謝して」
話したくてしょうがないならそう言えばいいのに。
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