謎と恋と投身自殺

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「ふうん」 亜印さんは微かに満足げな笑みを浮かべながら訳の分からない数値と僕の顔を眺めていた。 「なにか分かったんですか?」 「すごく興味深いわ。あのね」 と、亜印さんは珍しく説明をしてくれるらしい。 僕はかしこまって拝聴することにする。 「今から私がする説明は香川君は信じる義務は無いし、多分意味も無い。でもね」 今日は余程いい事でもあったのか?やたらに饒舌な亜印さんは……まあ、よくわからないのはいつも通りなんだけど……楽しそうだからいいか。 「リアクションくらい取ってよね。いつも香川君は他人事みたいに聞き流すから」 「……努力します」 こほん、と咳払いを一回した亜印さんの大きな目が吸い込まれるような黒色をしていて……今から僕はいつも通りに混乱したりするのだろう。 「香川君が『曲げよう』って思ったのがここねココ。この時間」 「はあ」 分かりやすいようにB4のコピー用紙に図解入りで書かれている。意外とマメな亜印さんだった。 「で、実際曲げたのがここ。分かる?」 「差が0.2秒……」 「そうね。0.2秒ね。因みに脳に指令が送られて行動に移すまでの時間は一般的に0.35秒から0.5秒掛かるって言われてるの」 裏付ける資料なんか此処には無いし、あったとしてもやっぱり僕には分からないだろう。 だから今は……亜印さんの意図を知る事にしようと思った。 「実際こんな数値は曖昧で、しかもどうでもいいの」 ぽい、とコピー用紙を放り投げた亜印さんは机に片膝を突いて身を乗り出すように僕に迫る。 って……どうでもいいのか。 「つまり香川君の手首は香川君が意図した指令を先読みしてるのね。だって計算合わないもの」 ジリジリの肉迫する亜印さんの太ももは無頓着にさらけ出され、僕は目のやり場に困る。 「じゃあ『香川君の意思』ってなに?誰かに先読みされて動かされてるだけなんじゃない?」 いや、その……下着が……丸見えなんですけど。 「パンツなんかどうでもいいの。今大事な事はね香川君」 「ふぁい」 がっしり両頬を掴まれ僕は両目を覗き込まれる。 「香川君は香川君の意思で動いてる訳じゃ無いって事。どう?グッと来た?」 僕は正直……亜印さんの下着の色が白かったって事以外はよくわからなかった。
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