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亜印さんは僕のリアクションが面白くなかったらしく、機嫌を直してもらうのに一時間を要した。
元々口下手を自覚する僕にしては上出来だったのだが、亜印さんは「つまらない」「くだらない」と僕の話を粉砕しながら……結局は自分が好きな『宇宙の限界』や『遺伝のメカニズム』についての考察を展開。
ようやく「バイト行ってもいいですか?」とお伺いを立て、晴れて釈放されたのである。
僕は今高校生だが生計を自分で遣り繰りしていた。
と言うのも、家族はとうに他界しており親戚も疎遠だったので面倒を見てくれる人間などいない。
そんな僕がなぜこうして学校まで通っていられるかと言うと
「よう!相変わらず貧乏くさい顔してるな」
バイト先でいきなりの先制パンチを浴びせられる。
「じゃあ時給上げて下さい」
「あーいやいや!疲れた感じの方がいんだよこの商売は。三十路越えのファンはお前が一番多い。母性本能っつーのか?」
「僕はずっと厨房にいますけど?」
「関係ねえ。ウチはアットホームが売りなんだ」
薄汚いビルの一角。
ホストクラブ紛いの古臭いクラブ。
メンバーズ『Because』が僕のバイト先である。
中学一年から働いているのでいつの間にか僕は店長以外では一番の古株になっていた。
「で、決めたか?」
「なにがです?」
「大学だよ。お前のセンセも行けるっつってたじゃねえか」
そうだった。
なんとこの店長、僕の三者面談に突撃したのだ。
本来肉親でも親戚でもない赤の他人の店長には資格など無くて当たり前なのに、持ち前の人懐っこさと押しの強さで僕の準保護者を名乗って面談を強行。
僕より先生と仲良くなる始末だ。
「働きますよ。大学行くカネなんかないですし」
「カネなら出してやるっつてんだろ!お前はもっと人生を大事にしろ」
「……はあ」
「事故だったんだよ……お前の両親も妹もしょうがなかったんだ。だったらお前だけでもマトモに暮らせよ」
「努力します」
「全くよ。苦労も多かったんだろうがシャキッとしろよ。とにかくカネなら心配すんなよ」
話は終わりとばかりにビルの薄暗いエレベーターに乗り込む店長。
期待してない人生には確かに面白みは無いけど、僕はずっと『別にいい』と思っている。
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