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「あの店長……僕」
「ご指名だよ色男。しっかりカネ落とさせてやれ」
『Because』は控えめに言っても高級店にはほど遠い。
しかも朝まで営業しているので割と繁盛している。それはいいんだけど……
「やっほ」
「……いらっしゃいませ」
キャバクラやスナックが閉店後になるとこの手のお客が増える。
①酔っている
②金を持っている
③ストレスを溜めている
要はタチが悪い。
「相変わらずの無愛想さねえ。指名してるのにぃ」
「何度でも言いますけどウチはホストクラブじゃないんです。指名料とかもないし」
「でも店長に渡したよ指名料」
「……へ?」
僕はカウンターに目を遣ると店長が僕に向かって両手を合わせて拝んでいた。
……あのやろう。
「はい乾杯」
カチンとグラスを合わせテーブルにあったグラスを僕に寄せる女性。
「……なんでいつも僕を呼ぶんですか?僕と話してもつまらないでしょう」
「そんなこと無い。なんかホッとするんだ」
僕がお客ならわざわざ僕なんか呼ばない。金を払って陰気な気分になりたいヤツなんていないだろうに。
「香川ちゃんといるとね。もう『いいんだ』って思えるの。わかんないかな?」
……。
「自殺ならやめといた方がいいです」
女性のグラスを傾ける手が止まった。
「ば!バカ言わないでよ!なんで私が自殺なんか……なんで……」
僕は何も言わず氷をくるくる回しながら安い水割りを呑んだ。
「なんで……分かったの?」
なんで?と聞かれても……なんとなくとした答えられそうになかった僕は水割りを煽り、口下手を全力で発揮しつつやはり何も言ってあげられなかった。
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