嘘の定義

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      *  *  * 「なぁ~に黄昏てんのよ? 」 頬に冷たいものを押し付けられて、僕は現実に戻された。「ほい」と言って渡されたのは真紅の350ml缶。 「コーラで良かった? 」 ありがと。お礼を言ってからプルタブを引くと、カシュッという小気味良い音をたてて甘い香りがほのかに鼻腔をくすぐった。 「ありゃ? 持って来る時に振ったんだけどな……」 少女が独り言のように呟いた事は聞かなかった事にしよう……少女に口げんかで勝てた試しが無いし、僕に実際に被害があった訳ではないから目を瞑ろう…… 早々に言及する事を諦めて、僕はコーラを一口飲む。甘みと爽快な炭酸が喉を駆け抜け、何となく幸せな気分になる。 多分こんな事で幸せな気分になれる僕は幸せな人間何だろう。 「それで、何考えてたの? 」 そう言いながら少女は僕の隣に腰掛ける。その手に握られたオレンジジュースの缶は、まるであの日の空のような色をしていて、何か懐かしい気持ちにさせてくれる。 「僕らの出会いについて」 僕の言葉が意外だったのか、少女は驚いたように目を丸くする。そしてそれを瞬く間に微笑みに変えると、懐かしむように口を開いた。 「もう1年かぁ……速かったような遅かったような……複雑な感じ」 そう言って少女はオレンジジュースを一口飲むと、口を閉ざした。 つられるように僕もコーラを一口飲んで黙って空を見上げる。 空はさっきよりも雲が減り、蒼の部分が広がっていた。これなら快晴って言っても良いだろう。 辺りからは何の音もしない。静寂。時折、風が優しく僕らを包み、その音を僕らの耳に届けるだけ。 そんな中、少女が再び口を開いたのは僕のコーラが半分位に減って、ちょうど良い気温のせいで眠たくなり始めた時だった。  
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