嘘の定義

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  キセキは次の日から始まった。 三時間目が終わった頃。 窓際、一番後ろ。という学生にとってかなり魅力的な位置に座っている僕は、休み時間だというのに机に突っ伏して携帯を弄っていた。勿論、周りの喧騒に邪魔されないように耳にはイヤホンをぶっさしてる。 携帯の一番下からはコードが垂れ下がり、そのコードは机の下のコンセントに繋がっている。 いわゆる充電である。ちなみにコレが業務上横領、窃盗罪にあたる事は百も承知だ。 しかし、情報の海に飛び込むには必要なプロセスなのだから仕方ない。必要悪だ。いや、そんな仰々しいものでも無いけど…… 友達がいない僕は、休み時間になると決まって某巨大百科事典サイトに旅立つ。さて、今日は何を調べようかと思案し始めた時に、それは起こった。 突然、僕の耳からエリック・マーティンの声が消えた。消えたというかイヤホンを取られたようだ。 人の至福の時間を邪魔するなんてなんて奴だ……なんて思いながら顔を上げれば、そこにいたのは昨日一言だけ話した学校一の美少女。手に持たれたイヤホンからは虚しくギターとドラムの音が漏れている。 予想外すぎる人物の登場に、僕の脳みそは考える事を止めたようで、目の前の少女に釘付けになるだけ…… だから少女の言葉も最初は聞いていなかった。 「ちょっと聞いてる? 」 少し怒ったように言う少女に、僕はただ首を横にふる。すると少女は、呆れたようにため息をついて 「今日もいつもの場所に来て」 僕の耳元でそれだけ言うと、長い黒髪を翻して、辺りにシャンプーの香りを撒き散らしながら足早に去っていった。 残された僕はというと、少女が出て行った方を見ながらイヤホンから漏れるエリック・マーティンの声をボーっと聞いてるだけだった。  
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