116人が本棚に入れています
本棚に追加
「おおきに、潤ちゃん。美枝はんによろしゅう伝えておいてくれへん? 」
「勿論」
そう言ってふわりと春菜に笑んだ。美枝とは潤の母親の名前である。
春菜は普段京都弁に近い方言を使っている。が、生まれが関西ではないため、本場の人とは少し違う部分もあるらしいが潤に言わせれば京都弁そのものだ。
「そや、遅くならはったやけど、合格おめでとさん。春からまた冬眞と一緒やんなぁ。変わらず仲ようしたってな!」
「はい、勿論です」
そう言って、先程と変わらない笑顔を貼りつけた。あの日から演技が上手くなった気がする。
それから他愛もない話で盛り上がっていると、壁にある掛け時計が六時を知らせた。
潤は慌てて腰をあげた。気が付けば三時間近くも話し込んでいたらしい。
「やば……帰らないと」
「そんなら、玄関まで送らして」
「いえ、こちらで。それでは」
春菜に深々と頭を下げ、足早に応接間を後にした。
今すぐにでも走りだしたかったが、いくら幼なじみといえど、人の家の中で走り回るほど子供ではない。
似たような引き戸が並ぶ廊下を不思議な気持ちになりながら歩いていると不意に腕を掴まれた。
最初のコメントを投稿しよう!